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竹澤哲のユーロフットボール紀行22

 祭りのあと
 
 決勝戦の翌日、朝9時頃に昨日試合を見たファンゾーンに行ってみた。驚いたことに、昨夜、いたるところに散らかっていたコップやゴミが、きれいに片付けられている。特設ステージの解体作業も始められていた。3週間にわたって繰り広げられた熱狂の宴は、まるで何もなかったかのように、通常の生活に戻されていく。
 特設ステージがあったため大会中は気がつかなかったが、市庁舎のベランダには赤や白の花が飾られていた。冬にこの国を訪れた時、花をまったく目にすることのない灰色の街を寂しく感じたものだが、夏のオーストリアには、いたるところに花が飾られている。市庁舎のような白い石で作られた、どちらかというと無機質な感じを受ける建物も、ベランダの花で与える印象はずいぶん異なる。市庁舎の花は、オーストリアの人々のやさしさを感じさせてくれるものだ。
 試合の合間にハプスブルク家の夏の離宮、シェーンブルン宮殿を訪れたが、広大な庭園と巨大な建物にまず驚かされたが、実際に建物の中を回ってみると、ベルサイユ宮殿に比べると、一つ一つの部屋が小さいし、予想の他、質素であることに気がついた。ハプスブルク家を象徴する薄い黄色で包まれた建物はとても清楚で品がある。
 オーストリアはもともとサッカーよりもウインタースポーツが盛んな国であるだけに、ユーロ開催にあたって、国民の関心が低いのではと心配されながらも、多くの人はやはりお祭りを楽しんだようだ。決勝戦当日、街中でそれを実感したし、決勝戦翌日の朝にはテレビでも大会を振り返る映像が何度も流され、また地下鉄に乗れば、スペインの優勝が一面に報じられた新聞を熱心に読んでいる人を数多く見つけた。
 オーストリアの人々はまた再び静かな日常を取り戻していくのだろう。文化、歴史の奥深さを感じさせるウイーンの街並みから、ヨーロッパの中心であることをあらためて感じさせられたし、たくさんの人種が住むコスモポリタンとしての側面もこの街に大きな魅力を与えていた。サッカー場を周り感じたのは、警備員などもけっして威圧的な態度を見せるものはなく、ボランティアたちの顔には常に笑みが溢れ、優しかった。サッカーの祭典ユーロがオーストリアという国の魅力をさらに強くしたのは間違いなかった


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竹澤哲のユーロフットボール紀行21

 2年後は世界一に

 スペインの強さは何だったのだろうか。決勝戦にはビジャが怪我のためでられなかったが、それまでアラゴネス監督はつねに先発メンバーを変えなかった。そして決まって、試合途中で選手を替えた。しかもどの試合も交代枠の3人を使い切っていた。それは不調な選手を交代させると言うよりも、豊富な持ち駒を使いたくてうずうずしているような、そんな感じだった。招集メンバー23人は各ポジションに2人ずつ(キーパーは3人)選び、しかも控えだけでもそっくりともう1チームをつくることができた。練習中に行った先発組と控え組とのミニゲームでは控え組が2対0で勝利したこともあった。
 グループリーグ1位抜けをしたポルトガルが第3戦をメンバーをそっくり入れ変えてスイスに敗れたのに対し、スペインは控えメンバーでもギリシャに勝利したことは戦力の厚さを如実に物語っていた。
 特にスター選手はいなくても、誰がでても同じコンセプトのサッカーをやれたところにスペインの強さがあった。そして今回のスペインはよくまとまっていた。
 地域性が強いスペインは、これまでは代表よりもクラブに関心があり、代表監督はそれぞれのクラブの思惑の中で動くことが多かった。したがって、当然ながらチームはまとまりを欠いていた。しかし今回、アラゴネス監督はラウールという、これまでの代表の中心であった選手もあえて選ばず、つまり名前だけでは選ばず、最もコンディションがよく、全体のバランスを考慮してチーム作りを行った。
 優勝が決まった日、普段ならスペイン国旗よりもカタルーニャの旗が多く見られるバルセロナのランブラス通りにもたくさんのスペイン国旗を持った人々でいっぱいになったという。そのこと自体、今回のスペイン代表を、スペイン全体が後押し、素晴らしい躍進を喜びをもって注目していた証拠だった。
 ユーロという集合体のもと、一つにまとまっていくヨーロッパにおいて、スペインだけが地域別に分かれて独立を求めること自体、もはやナンセンスである。今大会を通じて、スペイン人の中にもそういう意識を強めていった人がかなりいたはずだ。小さい国でありながら、かつては代表よりもクラブが優先されていたポルトガルも前回ユーロで代表に対する愛情は強まり、代表はさらに強くなった。それと同じことがスペインでも起きているようだ。スペインの友人が「今、スペインはヨーロッパで一番強いチームだ。でも2年後のワールドカップでは世界一になるから、見ているがいい」と話していたが、その主張もまんざら大げさではない気がする。

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| 05:47 | comments(0) | trackbacks(0) | 竹澤哲のユーロフットボール紀行 |

竹澤哲のユーロフットボール紀行20

 ウイーン市民も楽しんだ決勝戦
 
 昼頃シュテファン広場に行くと、すでにたくさんの人で溢れかえっていた。日曜日はいつもこのように賑やかなのかどうかは知らない。しかし通常の日曜日なら、商店も閉まっているため、せいぜい観光客を見かける程度のはずだ。
 インスブルックやザルツブルクの街でも試合当日はたくさんのサポーターで賑わっていたが、さすが決勝戦だけあり、たくさんのウイーン市民も街に繰り出していた。人々はみな、ドイツとスペインサポーターの掛け合いを見て楽しんでいる。スペインのユニフォーム姿でありながら、明らかにスペイン人ではない人もたくさん見られた。決勝戦を迎えて、祭りは最高潮に達していた。 
   真夏の強い陽射しの中、ドイツ人は白いユニフォームを着て、ビールを片手に「ドイッチェランド」と叫ぶ。だが、ファッション面においても、スペインはフラメンコや闘牛士とバリエーションがあり、パフォーマンス面においても、歌をみんなで歌い賑やかだ。
 市内にはいくつかのファンゾーンがあるが、どうせなら一番大きな市庁舎前がよいと思い、そこへでかけた。
 試合まであと3時間。陽は傾いてきているが、まだ相当暑い。特設ステージには生バンドが演奏しているが、それほど大きな音ではない。音楽に合わせて踊っている人もいるが、暑さを避けて、木々に囲まれた芝生の上で横たわっている人、噴水で水を浴びる人、それぞれ思い思いに、試合までの時間を楽しんでいる。
 太陽が市庁舎の建物に隠れた頃、ちょうど試合が始まった。ここに集まったのはほとんどがウイーンに住む人たちだと思われるが、どちらを応援するかを、旗や帽子、シャツでアピールしている。だいたいどちらも同じぐらいの数だ。試合が始まっても、どんどんと人が入ってくるため、ほとんど身動きができない。時折吹く風が心地よいが、湿気もかなりあり、汗がにじみ出てくる。しかもビールを頭上に掲げながら、人混みをかき分けて行くものや、試合をみないで話している人もいて、なかなか集中して試合をみることができない。不快指数は通勤の満員電車並みで、サッカーを真剣に見たいものにとってはちょっと厳しいものだ。
 フェルナンド・トーレスのゴールが決まると、いっせいにスペインの旗が頭上に振られた。
 試合終了後も人々は余韻を楽しむように、しばらく立ち去ろうとしなかった。もはやスペインとドイツだけの試合ではなく、お祭りをみんなで楽しんだという雰囲気だった。
 決勝戦をオーストリアの人が満喫したのはまちがいなかった。

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| 05:47 | comments(0) | trackbacks(0) | 竹澤哲のユーロフットボール紀行 |

竹澤哲のユーロフットボール紀行19

 スペインの敵ではなかったロシア
 
 準決勝でのスペインは完璧だった。好調のアルシャフィンに対して、センターバックのプジョルとマルチェナはイタリア戦でのルカ・トーニの時のように、しっかりと押さえ込み、まったく突き入る隙を与えなかった。中盤でボールを回し、セルヒオ・ラモスはよくサイドを駆け上がり、チャンスを作り出していた。
 前半こそ得点はなかったが、後半、シャビが先取点を奪ってからは、全くのスペインペース。ロシアが反撃しようと前がかりになってくるのをうまく利用してカウンターを決めた。グイサの得点はとてもエレガントなものだったし、シルバの得点も素晴らしかった。終わってみれば0対3の完勝。初戦でロシアと戦った時に比べて、はるかにいい内容だった。
 不運だったのはビジャ。ゴールから25メートルほど離れたフリーキックを蹴った際に、筋肉を痛め、途中でベンチに下がった。その後、検査の結果、決勝戦への出場は無理と診断された。大会得点王を争うポドルスキーとの直接対決が楽しみだっただけに残念だ。
 スタジアムには予想以上のロシア人サポーターが訪れていた。インスブルックの時もそうだったけど、街中で見かけるのはスペイン人の方が圧倒的に多かった。あるいは、スペイン人の方が単に目立っていたためなのか。スタジアムに時折、「ロシア、ロシア」とちょっと低い声が響き渡る。応援は単調だ。スペインが3点目を決めた時、勝利を確信したスペインサポーターは「シェリート・リンド」を全員で合唱した。スペインの選手がボールを回し始めると、「オレー、オレー」のかけ声。スタジアムはスペインの独壇場となった。
 それにしても、ここまでスペインが勝ち上がるとはいったい誰が予想しただろうか。大会1ヶ月前に行われたペルー、アメリカ合衆国との親善試合では守備のミスがあったり、また得点力不足が指摘されたり、アラゴネス監督と選手たちに対して大きな批判がされた。そのためスポーツ紙『マルカ』が行ったアンケートでは、回答を寄せた6万人の中、スペインが決勝まで行くと予想したのはわずかに24%だけだった。
 いつも期待を抱かせながら、それを裏切ってきたスペインだが、今回はベスト8の壁をやぶったことで、優勝への期待も大きく膨らんできた。

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| 05:46 | comments(0) | trackbacks(0) | 竹澤哲のユーロフットボール紀行 |

竹澤哲のユーロフットボール紀行18

 120分間集中を切らさなかったスペイン
 
 こんなに慎重に戦うスペインをこれまで見たことがなかった。試合前日に行われた記者会見の席上、アラゴネス監督は「イタリアは世界チャンピオンだ。今大会でも優勝候補であり、イタリアに勝つのは大変だ。しかし彼らも我々に勝つのは大変だと感じているだろう。ドイツワールドカップの時、選手たちもまだ若かった。しかし現在では大会の重要さもよく理解できている。イタリアの経歴など恐れてはいない。我々が勝利できると信じている」と話した。さらに具体的な戦い方については、「我々が主導権を握るような展開はむしろ避けたい。相手にカウンターの機会を与えないようにしなければいけない」と話していた。
 まさにそのような戦い方となった。ボールを持っても、積極的に攻めるわけではなく、じっくりと後ろでボールを回しながら、攻撃のチャンスを狙った。時折、フェルナンド・トーレスとビジャがイタリアのディフェンスを突破しようと試みるが、ことごとく跳ね返されてしまう。イタリアはビルロとガットゥーゾを欠いていたが、相変わらず、守備は堅く、攻撃への展開は早かった。トップに張るルカ・トーニはこれまで得点はなかったものの、スペインにとっては大きな脅威だった。決定的なチャンスを作ったのはスペインよりも、むしろイタリアの方だった。
 延長でも決着がつかずPK戦になった時、ゴールキーパーのカシージャスはまるでそうなることを最初から分かっていたかのように、落ち着いていた。今シーズン、何度もレアルマドリードのピンチを救い優勝に貢献し、ファンからは聖カシージャスと言われていた。その好調さはユーロでも発揮された。
 PK戦で2度止めて、勝利に導いたカシージャスもすばらしかったが、120分間けっして集中を切らさずに戦ったからこそ、これまでのスペインの脆さを露呈させずにすんだのだ。この試合を見ながら、ポルトガル対ドイツ戦を思い出していた。ポルトガルは、ポルトガルらしい戦いを最初から最後まで貫き、美しいプレーを随所に見せていた。見ているものにとっては楽しい試合だったが、スペインのように慎重に戦う方法もあったのだ。トーナメントではこのような手堅さも絶対必要だからだ。
 今大会のスペインは幸運にも恵まれている。準決勝で再び対戦するロシアは一戦ごとに力をつけてきており、初戦のように簡単にはいかないだろう。しかし、ここまで来た以上、絶対に決勝に進出してもらいたいものだ。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行17

スペインサポーターとイタリアサポーター

 日曜日、静かだったケルントナー通りはたくさんのスペインとイタリアのサポーターで埋め尽くされた。その中には、すでにザルツブルク、インスブルックで見かけたスペイン人も何人か見かけた。思いっきりサッカーボールを高く蹴り上げて、ビルの壁に当たって跳ね返るのを楽しんでいる集団もいる。
 両国サポーターの掛け合いは見ていておもしろいものだ。スペインは例によって、「ビバ・エスパーニャ」とか国歌をみんなで合唱する。しかしイタリア人のサポーターを見ると、「アリベデルチ、ラララ」と歌い出す。アリベデルチとはイタリア語でさようならの意味だ。しかしイタリア側のサポーターも負けていない。「我々は世界チャンピオン。スペインはスターがない」とみんなで合唱する。最初、スペインにはスター選手がいないという意味かと思ったが、シャツについた4つの星を指さしているのをみて、ワールドカップ優勝回数を意味するスターだと気がついた。たしかにスペインはワールドカップに優勝したこともない。これまでの伝統からするとイタリアに頭が上がらないのだ。公式戦では88年間もイタリアに勝っていないという。しかもスペインは大きな大会でいつもベスト8止まり。データとしては悪いものばかりだ。
 当日のマルカ紙一面の見出しは「カンビアール・ラ・イストリア(歴史を変える)」というものだった。スペインは94年のワールドカップ準々決勝でイタリアに2対1で敗れている。その試合ではスペインのルイス・エンリケがイタリアのタソッティのひじうちを顔面に受けて、鼻骨を骨折している。したがってルイス・エンリケにとってこの敗戦は忘れることのできない試合であり、その気持ちはスペイン人全体が共有するものだ。新聞には「同郷のビジャ(ルイス・エンリケもビジャもアストゥリアス州の出身)が得点して、リベンジを果たして欲しい」というルイス・エンリケのコメントが紹介されていた。
 しかしけっして両国サポーターがけんかをするようなことはない。イタリア語とスペイン語は似ているために、ビールを飲みながら、一緒に仲良く話しているのもよくみかけた。賑やかで楽しいサポーター同士の掛け合いが、試合前の雰囲気をいっそう盛り上げていた。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行16

 決勝の地、ウイーン
 
 ギリシャ対スペイン戦の翌日(19日)、ウイーンに移動した。突然、夏がやってきたようだ。強い日差しがじりじりと照りつけ、これまでの寒さがまるで嘘のようだ。
 ウイーンはこれまでに訪れたザルツブルクやインスブルックとは比べものにならないほど街が大きい。街を網の目のように張り巡らすように地下鉄やトラムが走っているし、高層ビルも久しぶりに目にした。
 早速、旧市街の中心にあるシュテファン広場から、たくさんの商店が並ぶケルントナー通りを歩いてみた。歩行者専用道路であるため、自動車の騒音はない。前にも書いたが、オーストリアのどこを回っても静かだ。ウイーンのような大都会でも、街中を歩いても、また地下鉄に乗っても、静かに感じてしまう。試合会場で大歓声の中に身を置いてきたから、そのように感じるのだろうか。
 耳を澄ますと、異なった様々な言語が聞こえてくる。もともと観光客が多く集まる地区でもあるため、いったい誰がオーストリア人であるのか区別がつかない。
 今までの2都市ではどうしてもユーロの盛り上がりを感じなかったけれど、ウイーンは異なった。ファンゾーンにもたくさんのサッカーファンがゲームをして楽しんでいるし、街中のサッカーグッズを扱っている店にはたくさんの客が詰めかけていた。すでに敗退が決まった国のユニフォームはセールになっている。決勝まであと10日。これからは早い。ウイーンこそ、決勝が行われるのにふさわしい街だ。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行15

 輝いていたリュシュトゥ

 トルコがまた劇的な勝ち方をした。トルコ対クロアチアは延長30分も無得点のまま終わり、このまま0対0でPK戦になると思われた。ところが、終了1分前、サイドに流れたボールにトルコのゴールキーパー、リシュトゥが誘い出されるようにでたところをモドリッチに折り返され、クラスニッチが頭で決めた。トルコにとっては敗戦が決まる、まさに致命的な失点だった。普通ならこれで終わる。ところがそれから2分後、延長のロスタイム、リシュトゥがペナルティエリア付近に上げたボールに、トルコの選手が強引に奪おうとクロアチアのディフェンダーに追い被さった。2人とも倒れ、こぼれた球を拾ったトルコのセミフ・シェントゥルクがシュートを放ち、ネットに突き刺した。
 実際、多くのトルコ人はクロアチアが得点した時点で敗戦だと思い、出口にむかって歩き始めていた。
 リシュトゥは2002年ワールドカップで、トルコが3位に入った際も大活躍をしたキーパー。その後、バルセロナに入るが、EU枠外であるため、若手のビクトル・バルデスにポジションを奪われ、なかなか起用されることがなかった。失意のまま、バルセロナからトルコのフェネルバフチェに戻っている。しかし今大会、36歳の彼はニハトと共にチームの精神的支柱として貢献している。
 PK戦になった時、リュシュトゥはコイントスにより、使用されるゴールをトルコサポーター側に引き当てクロアチアにプレッシャーを与えた。そしてリュシュトゥはもともとPK戦に強いキーパー。ゴールに立ったリュシュトゥは大きな威圧感をクロアチアの選手に与えたにちがいなかった。案の定、最初のキッカーであるモドリッチは外してしまう。さらに4人目のキッカーのシュートをリュシュトゥは止めて、トルコの勝利が決まった。
 試合後、歓喜に沸くトルコ人選手たちの集団から一人外れ、大泣きしているクロアチアの選手を抱きしめていたリュシュトゥの姿が印象的だった。最後まであきらめなかったトルコ選手のがんばりはすばらしかったけれど、その中でも、一番輝いていたのはリュシュトゥだった。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行14

 美しかったポルトガル
 
 ポルトガルが負けてしまった。ドイツとの対戦が決まった時点で、いやな予感はしていたけれど、そのとおりになってしまった。後になって思えば、前半20分、ボシングワのクロスをモンティーニョが決めていれば、試合の流れは変わっていたかもしれなかった。それにしても見事だったのはその直後にシュヴァインシュタイガーが決めたゴールだった。試合開始からその失点までポルトガルが優勢にボールを支配していただけに、カウンターによるこの失点はポルトガルの選手に大きな衝撃は与えたに違いない。しかも、立て続けにセットプレーから2失点目を奪われてしまう。前半のうちにポルトガルは1点を返して、希望をつないだが、後半、3失点目を許してしまい万事休すとなった。
 ポルトガルのサッカーは美しかった。攻撃へのビルドアップ、一連の流れるようなプレーはとても魅力的だったし、内容では間違いなくポルトガルの方が優っていた。しかしセットプレーから2失点してしまったことが痛かった。
 前半1点を決めたヌーノ・ゴメスは試合後、次のようなコメントを残した。「ドイツがセットプレーに強いことは分かっていた。問題は、あまりに早い時間帯に得点を許してしまい、相手に大きな自信を与えたしまったことだった。前半1点差に追いつき、ハーフタイムで僕らはまだやれると話していたんだ。勝利を信じて後半のピッチに立った。しかし僕らに運も味方しなかった。ドイツのような相手を負かすにはアグレッシブに戦わなければいけないことは戦前から分かっていた。しかし僕ら以上にドイツはアグレッシブだったんだ」
 たしかにドイツはグループリーグの時とは見違えるようにスピードがあったし、アグレッシブだった。やはりこれが伝統国の強さなのだろう。少ないチャンスを活かして勝利した。
 ポルトガルが消えてしまったことはとても残念だ。クリスティアーノ・ロナウドは間違いなく、大会でもっとも輝いていた選手だった。彼がボールを持つだけで、いつもわくわくさせられた。もっともっと彼のプレーをみたかった。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行13

スペイン、ポルトガルの前に立ちはだかる伝統国イタリア、ドイツ

 スペインの準決勝での対戦相手がイタリアに決まった。スペインにとって、ルーマニア、フランス、イタリアの中では、もっとも避けたかった相手だった。スペインのスポーツ紙『マルカ』には、スペインが公式戦において、88年間、一度もイタリアに勝ったことがないというデータを載せていた。最近では、94年ワールドカップアメリカ大会準々決勝においてイタリアに敗れており、その記憶がスペイン人にとってはトラウマとして残っているのだそうだ。アラゴネス監督は、イタリアの勝負強さをあげ、「スペインにとってうれしくない相手。しかし今のスペイン代表にはどこと当たっても勝てるはずだ」とコメントしていたが、もともと慎重なのか、その言葉からは今ひとつたくましさが感じられない。これまで重要な大会ではことごとく準々決勝で苦汁をなめさせられてきたスペインだけに、どうしても重圧を感じてしまうものかもしれなかった。救いなのは、ガットゥーゾとピルロが累積によりでられないことだ。しかもスペインは第2戦で1位通過を決めただけに、第3戦において主力を休ませることができたことは大きい。 
 一方、ポルトガルの対戦相手はドイツ。戦前の予想では、ドイツが1位抜けし、クロアチアが2位というものだった。しかしクロアチアはドイツに完勝し、勢いに乗っている。ドイツは初戦のポーランド戦には危なげなく勝ったものの、第2戦、第3戦ととくに見栄えすることもなく、けっしていいサッカーをしていない。それでもやはりドイツはドイツ。2006年ワールドカップでは、ポルトガルはドイツと3位決定戦で対戦し、敗れている。しかしこれから調子を上げていくことも十分考えられるし、何と言っても伝統的にゲルマン魂からくる勝負強さをもっているだけにポルトガルにとってはいやな相手だ。
 だが今回のポルトガル選手は強気だ。ペティは次のようにコメントしている。「ミスをしたらやられるだろうし、大変な試合になることは分かっている。今回のドイツは06年の時とはちがう。オーストリア戦でも苦戦していた。もちろん攻撃的で強い相手であることには変わりはない。でも僕らは決勝進出を目指している。それを達成するためには強豪国は避けて通れないんだ」
 ベスト8の壁に苦しめられているスペインと、前回準優勝に終わった悔しさを今大会にぶつけ何としても決勝進出を果たしたいポルトガル。気持ちの差が選手や監督のコメントにもでている。強豪国の一つではあるがなかなかサッカー伝統国になれないできた両国にとって、準々決勝のハードルは何としても越えなければならない。準々決勝での両チームの戦いぶりに注目したい。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行12

 ユーロにおけるトルコの微妙な立場
 
 トルコの大勝利により大騒ぎとなったウイーンにあるトルコ人街の様子がテレビでも放送されていた。ザルツブルクの街でも試合後、クラクションを鳴らしながら走り回るトルコ人が多かった。オーストリアの街のいたるところに、カバブを売っているスタンドを見かける。ドイツと同様、オーストリアにもたくさんのトルコ人が生活している。
 そのトルコ人に対するオーストリア人の視線には、微妙な感情が含まれているようだ。そもそもヨーロッパの中には、トルコはアジアであり、ヨーロッパではないと考える人が少なくない。しかも宗教的にもイスラムであるため、キリスト教でまとまったヨーロッパ社会とも異なる。
 トルコがEUへ加盟するかどうかについても、オーストリア人のほとんどが反対の立場をとっている。その一方でクロアチアの加盟に対しては積極的になっている。トルコのEU加盟を拒む理由としては、トルコ人の人口が多いこと。(約7000万人であり、これはEUで最大の人口を持つドイツの8200万人に次ぐ人口となり、あるいは将来的に抜く可能性がある)また、トルコの平均所得はEU圏の13%程度という経済格差の問題もある。
 多くのトルコ人労働者を抱えるドイツにおいても、またオーストリアにおいても、トルコ人がなかなか社会にとけ込まず、独自の社会を築いているという事実も、EUへの加盟を困難にしているようだ。
 しかしその一方で、トルコは第2次世界大戦後、ソ連(共産主義)からの防波堤の役割をヨーロッパ西側諸国から期待され、ヨーロッパ諸国との結びつきを強めていった。そのためトルコはさまざまな分野において、ヨーロッパ国際機構に参加しており、サッカーにおいてもUEFA(欧州サッカー連盟)に60年代から加盟してきた。ユーロ予選には60年大会から参加、本大会に初出場したのは96年が最初。2000年ベルギー・オランダ大会ではベスト8へ進出する活躍を見せている。
 トルコは、今大会でよい成績を残すことで、EU圏内に存在を強くアピールしたいという意図も当然あるはずだ。


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竹澤哲のユーロフットボール紀行11

 大逆転を生んだニハトの冷静さ

 トルコが劇的な勝利を飾り、決勝トーナメント進出を果たした。74分までは2対0とチェコにリードされていながら、それからわずか15分ちょっとの間に3得点を決め、大逆転したのだ。
 今回のユーロでトルコはひょっとしたら大きなサプライズを起こすのではないかと予想していた。だからトルコの初戦の相手がポルトガルと決まった時は、ポルトガルは足下をすくわれるのではないかとさえ思ったのだ。実際、初戦のトルコの戦いぶりもけっして悪くなかった。ポルトガルが良すぎたのだ。
 トルコのキャプテンでフォワードのニハトはスペインリーグのビジャレアルでプレーする選手。わずか10年前にリーガ・エスパニョーラ1部に昇格し、UEFA杯やチャンピオンズリーグでもベスト4に入る大躍進を果たしてきたチームだが、昨季はクラブ史上最高の2位という成績を残した。その好成績に貢献した一人がニハトだった。ユーロ前のインタビューでも、「2002年ワールドカップ以来、トルコは国際大会でいい成績をだしていない。それだけに、今回はトルコの名を改めて世界に知らしめるチャンス」と抱負を語っていた。
 後半74分に1点差に追いついたトルコは、それから何度も右サイドからクロスをあげるようになった。途中出場のカジムは、85分に焦ってクロスをあげたため、ボールはゴール後方に飛んでいった。印象的だったのはその時にニハトが見せた態度だ。ベテランであるニハトは21歳のカジムに向かって、落ち着くようにとジェスチャーしてみせた。
 ニハトがゴールキーパーのチェフのキャッチングミスしたこぼれ球をゴールに押し込んだのは、その直後のことだった。最後まであきらめず、落ち着きを失わないで戦っていたからこそ、チャンスを見逃さなかったのだ。さらにそのわずか2分後にニハトは決勝ゴールを決めた。勢いに乗ったトルコの恐ろしさをまざまざと見せた試合だったが、それを生んだのはニハトの冷静さだったといえよう。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行10

 ”ビジャ・マラビジャ”


 スペイン対スウェーデンの試合をスタジアムにて観戦した。共に初戦を勝利し、この試合で勝った方が決勝トーナメント進出を決める。しかも両チームは予選でも顔を合わせており、1勝1敗。それだけに均衡した激しい試合が予想されたが、果たしてそのとおりとなった。
 スペインは開始早々からチャンスを作り、圧倒していた。そしてフェルナンド・トーレスが得点し、楽な展開になるかと思われたが、その後、パスがうまくつながらなくなった。そしてそんな中で生まれたのが、イブラヒモヴィッチの得点だった。1対1、スペインにとっては苦しい展開となった。
 しかしハーフタイムでイブラヒモヴィッチが交代すると、スウェーデンは引き分けでもよいと考えたのか、攻撃をしなくなった。スペインが圧倒的にボールをキープするようになった。終盤にはスウェーデン選手は疲労が激しく、足が止まってしまった。それでも試合はこのまま引き分けに終わるかと思われた。そんなときにスピードのあるビジャが飛び出し、値千金の得点を決めたのだった。
 試合後、ビジャは「僕らはとにかく勝利を最後まで目指して戦っていた。スウェーデンは時間が過ぎるのだけを待っていた。勝利はあきらめているみたいだった。僕のゴールはロシア戦の3ゴールよりもはるかに価値のあるものだった。苦しい試合だっただけに喜びもひとしおだった」と話している。
 スペインサポーターはビジャを褒め称え、「ビジャ、マラビージャ(Villa Maravilla)」と合唱した。マラビージャとはスペイン語で『すごい』という意味で語尾のビジャをひっかけている。アラゴネス監督も「ビジャがいて助かった」と、苦戦であったことも認めた。
 スペインが決勝トーナメント進出を決め、ビジャは大会得点王のトップに躍り出た。好調スペインを引っ張るのはこれからもビジャなのか?あるいはフェルナンド・トーレスもゴールを量産し始めるかもしれない。攻撃においては全く問題なさそうではあるが、守備に関してはプジョルが足の裏を怪我したり、不安材料は相変わらず残っている。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行09

 すばらしい合宿地

 スペイン対スウェーデン戦が行われる朝、再び、スペイン代表が合宿しているノイシュティフトを訪れた。11日付のスペイン『マルカ紙』には練習場に300人のファンが訪れたことが報道されていたが、連日、合宿地を訪れるスペイン人の数も増えているようだ。
 スペイン代表が宿泊しているミルデラー・ホーフホテルに着いたのは午前11時頃。ホテルの入り口には、20人ほどのファンが熱心に、バスに乗り込む選手たちを見つめていた。バスとの距離は30メートルほど。
 初戦でハットトリックを決めたビジャは、上機嫌な様子で、わざわざ入り口までやってきてファンにサインをしたり、気軽に写真撮影に応じていた。
 その後、選手たちはバスにて出発。近くの野原を散歩するためだった。スペインの報道陣は10人ほどいたが、すでに初戦の時と同じコースを選手たちが歩くことを知っており、カーブになったところでカメラを並べ、選手たちが歩いてくるのを待ちかまえた。数分後、プジョルとフェルナンド・トーレスを先頭に、選手たちはおしゃべりをしながら歩いてきた。
 天候は曇りで少し寒く、雪をかぶった3千メートル級の山々を見ていると、初夏であることを忘れてしまう。選手たちは軽いストレッチを行い、そしてさらに散歩を続け、下に止めてあるバスに乗り込んだ。ほんの30分ほどの散歩であったが、きれいな空気を吸いながら、試合前の緊張と身体をほぐすのが目的のようだ。
 スペインは重要な初戦と第2戦をインスブルックで戦うが、ここからはバスで30分ほどしかかからない。合宿地にこのようなすばらしい環境を選んだのは大正解だろう。
 インスブルックへ戻ると、たくさんのスウェーデン人サポーターにより中心街は埋め尽くされていた。その後、スペイン人サポーターも次第に数を増してきた。組織力はスウェーデンの方が優っているようで、数百人からなるスウェーデン人サポーターが一団となってメインストリートを行進していた。スペイン、スウェーデン両国旗をフェイス・ペインティングして一緒になって楽しんでいるオーストリア人もいた。また、騒いでいる両国サポーターを遠巻きに見物している地元のお年寄りの姿もあった。大会は日を重ねるごとにヒートアップしてきているのはまちがいないようだ。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行08

 スコラーリ監督のチェルシー就任


 チェコ戦ですばらしい勝利をしたポルトガルだが、その直後に大きな驚きが選手たちを襲った。スコラーリ監督が来シーズンからチェルシー監督を務めるというのだ。チェコ戦が終了した段階で、チェルシーの公式サイトにはすでに発表されていたというが、スコラーリ監督自ら、夕食の席で、選手たちに直接伝えたのだという。
 なぜスコラーリ監督はこのタイミングで選手たちに伝えたのだろうか?いくらグループリーグ1位勝ち抜きが決定したからといって、何もこの段階で発表することではない。
 スコラーリ監督のマネージャーによると、「すでにポルトガルサッカー連盟のマダイル会長には伝えてあった。そしてフェリポンはこの時期こそが、明らかにするのにふさわしいと考えたのだ」という。スコラーリ監督のチェルシー行きはこれまでにも噂されていた。したがってこのような噂でチームが影響されるよりも、先に発表してしまった方がよい。ポルトガルが準々決勝を戦うまで日にちがあるから、それまでには騒ぎも落ち着くと考えたようだ。
 翌日、練習はキャンセルされ、選手たちには休みが与えられた。誰もこの問題については口を開こうとはしなかった。ポルトガルの新聞にはウーゴ・アルメイダのコメントが紹介されていた。「僕ら選手は特にこのことで動揺はしていない。とにかく僕らは勝ち続けていこうという気持ちでいっぱいだ」
 多くの選手はジュネーブで買い物を楽しんだ。クリスティアーノ・ロナウドの同行については、レアルマドリード移籍の噂があるため、スペインのメディアがかなりしつこく追い回している。アス紙がその日の行動を詳しく伝えていた。『ロナウドはマネージャーに車で迎えに来てもらい、ペティ、ジョルジュ・リベイロを伴って、ヌーシャテル湖でクルーズや食事を楽しんだ。許可を9時まで取っていたが、ホテルには7時に戻ってきた』
 グループリーグにおいて華々しい勝利を飾った、ポルトガルへの評価はうなぎのぼりだ。しかしスコラーリ監督のチェルシー行きが果たして今後のポルトガルの戦いぶりにどのような影響を与えるのか、少し気がかりだ。
 

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竹澤哲のユーロフットボール紀行07

 希望をつないだオーストリア

 ドイツが負けた。それにしてもクロアチアの戦いぶりは見事だった。98年ワールドカップでクロアチアがドイツを3対0で破った試合を思い出した。試合前、ビリッチ監督は、「もし我々がドイツと同じように走り回ることができたのなら、あとはタレントの問題だ。タレントでは我々の方が優っている」とメディアに対して話していた。実際、選手たちにも「12キロはがんばって走ってくれ」と指示したという。果たして試合はそのとおりとなった。クロアチアのモドリッチ、コヴァッチがよくボールに絡み、中盤を圧倒的に支配していた。一方のドイツは中盤から前線にほとんどボールがつながらなかった。
 テレビでドイツ戦を見た後、ザルツブルクのファン・ゾーンに向かった。前日のチェコ対ポルトガル戦の時とは異なり、たくさんのオーストリア人で広場は埋め尽くされていた。静かなザルツブルクの街でも、ここだけは全くの別空間のようだった。
 しかしその場にいた人々のすべてが熱心にスクリーンを見つめていたわけではない。少しだけ覗いて帰るものも多いし、雑談ばかりしていて、オーストリアのチャンスでワァーと歓声が上がると慌ててスクリーンを見つめるという具合だ。
 前半29分にポーランドのゲレイロが得点した時も、「あぁ、やちゃったよ」という感じで失笑している人が多かった。それでも試合後半になると、熱気は増してきた。発煙筒がスクリーンに向けて投げつけられたりもした。サポーターとしての文化は、まだないようで、フェイス・ペインティングなどをした女の子も少しは見られたが、みんなで声を揃えて応援するようなことはなかった。
 スクリーンからも、オーストリアの選手たちの必死さはよく伝わってきた。運動量はかなりのものだ。そんな懸命のがんばりが、試合終了間際のPKに結びついたのだろう。PKが決まった瞬間、ファン・ゾーンは大騒ぎとなった。歓喜の声が旧市街に響き渡り、赤と白の国旗が夜空に向かって振られた。
 引き分けたことで、少なくとも希望だけはつながった。第3戦はドイツが最初から全力でもってぶつかってくるだろう。オーストリアの人々がさらに燃え上がることも期待している。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行06

 静かな街、ザルツブルク
  
 ザルツブルク駅に列車が滑り込むと、ホームには満面に喜びを浮かべているスウェーデンサポーターで溢れていた。その時まで試合結果を知らなかったのだが、スウェーデンが勝利を収めたのはまちがいなかった。
 翌朝、ミラベル庭園からザルツァッハ川を渡り、旧市街を歩いてみた。
 街はとても静かだった。
 庭園には保母さんが子供たちを連れて歩いていたし、モーツァルトの生家前には観光客を連れたツアーガイドが大きな声をだすこともなく、説明をしていた。商店のショーウインドウの飾り付けはほとんど普段と変わりがなく、特別ユーロを意識したものはない。おみやげ屋さんには、多少ユーログッズを並べているところもあるが、モーツァルトの方がよほど目立っている。
 前日、試合の行われた日はインスブルックにいたため、街がどのような状況になっていたかは知らない。しかしザルツブルクで、最初のゲーム、スウェーデン対ギリシャが前日に行われたとは、とても思えなかった。街は平静を保ち、ユーロの盛り上がりはほとんど感じなかった。8日にこの街に着いた時、オーストリア戦の最中であるため、人々は家でテレビ観戦していて、外を歩いている人はいないと書いたが、果たして本当にそうだったのか、疑問を感じてしまった。
 レジデンツ広場に設置されたパブリックビューイングのスペース、『ファン・ゾーン』に行ってみた。ポルトガル対チェコ戦という屈指のカードを見るために、雨が降っているにも関わらず、たくさんの人々が集まっていた。だが、ほとんどが10代、20代。得点シーンには歓声が上がったが、あくまでも静かに試合を見つめている。ハーフタイムには特設ステージから、大音量で音楽を流しながら、司会者がマイクで盛り上げようとするが、雨の中にまるで音は吸い込まれていくようだった。
 インスブルックでもスペインとロシアのサポーターと共に街の人たちが楽しんでいたかという点になると、やはり疑問だ。前回のポルトガル大会、あるいはドイツワールドカップでは、開催国が勝ち進んでいったこともあるが、地元の人々ももう少しお祭りを楽しんでいた。オーストリアが勝ち進んでいけば、また大会が進んでいけば、さらに盛り上がっていくのだろうか。


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ミラベル庭園


ザルツブルグにて

ザルツブルク全景

FANZONE
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竹澤哲のユーロフットボール紀行05

よくも悪くもスペインらしさ

 インスブルックにて、スペイン対ロシア戦を見た。前日とは街の状態が一変していた。中心街であるマリア・テレジア通りからヘルツォーク・フリードリヒ通りを歩いたが、路上にはたくさんの両国サポーターで溢れかえり、前へ進んでいくのも大変だ。
 闘牛士の格好をしたものや、太鼓をたたくもの。その数の多さもさることながら、騒がしさではスペインがロシアを圧倒していた。「エスパーニャ、エスパーニャ」「ビバ・エスパーニャ」といたるところで叫んでいる。ワールドカップに比べ、出場国も少ないこともあり、一国のサポーターがとても目立ってしまうのかもしれなかった。実は、後に試合会場に行ってロシアサポーターの多さに驚いたのだが、街中では、ロシア人サポーターはとても控えめだった。
 試合は4対1とスペインが大差で勝利。だが、内容はけっして得点差ほどよかったとはいえない。たしかにフェルナンド・トーレスの1点目のアシスト、イニエスタの2点目のアシストは見事だったし、3点目のビジャの個人技もすばらしかった。しかしチーム全体としては90分間を通じて、よく集中して戦ったかという点になると、そうではなかったようだ。ミスは多かったし、ロシアのシュートがポストやバーにあたるシーンもあった。ロシアの1点も、ゴール前にあげられたボールをスペインのディフェンスはぼうっと見ていただけだった。リードすると気を抜き、相手に合わせてしまうような、これまでのスペインの短所もそのまま見せていたような気がする。
 初戦の印象として、例えば最小得点差を守り、試合をコントロールし続けたポルトガルや、イタリアに対して3対0としながらも、最後まで気を抜かなかったオランダのようなチームを見た後だけに、スペインにはちょっと不満さえも感じた。


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竹澤哲のユーロフットボール紀行04

スター選手のいないスペイン代表

 インスブルックからさらに15キロほど山に入った、チロル地方、ノイシュティフトを目指した。そこでスペイン代表がキャンプを張っている。標高が1千メートル。雪をかぶった3千メートルを超える山々もすぐ目の前に迫ってくる。山間の村は初夏を迎え、川は勢いよく雪解け水を運び、新緑が眩しい。冬はスキー客などで賑やかになる山村も、このシーズンはひっそりとしている。選手たちが集中を計るのには格好の場所のようだ。スペイン代表の宿泊するホテルの前には警備員がいるもの、仰々(ぎょうぎょう)しさは全くなかった。
 果たして今回のスペイン代表はどうなのか。スペイン国内では、代表メンバーが発表される直前まで、ラウールを招集すべきだという声が多かった。今季のレアルマドリード優勝に貢献したラウールはたしかに、誰が考えても代表に選ばれて当然といえる。しかし、アラゴネス監督は最後まで頑固さを貫いた。
 アラゴネス監督がその代わりに選んだのが、スペインリーグ得点王となったグイサだった。グイサはスペインリーグでは真ん中の順位、UEFA杯にも出場しないマジョルカというチームの選手。マジョルカのようなチームでは得点できても、果たして代表ではどうか?と私も思っていた。しかし代表メンバー発表が行われた当日、マジョルカで行われたグイサの記者会見を見て、そんな疑問は一気に消えた。「代表に選ばれたのも1年間がんばってきたからだと思う。スペイン代表は決勝まで必ず行くだろう。優れたメンバーを揃えているから、優勝しても不思議ではない」と、堂々と自信に溢れた様子で答えた。しかも記者の質問に答える言葉の端々に、気の強さがよく表れていた。
 先発にはフェルナンド・トーレスやビジャが起用されるだろうが、試合が膠着状態に陥った時など、グイサが起用されたらおもしろいかもしれない。90年ワールドカップ、イタリア代表のスキラッチのように大化けするかもしれない。スペインのスポーツ紙「マルカ」には、「スター選手のいないスペイン代表」という見出しが使われていたが、これまでの代表にない、まとまりのよさが現代表にはあるとも言われている。その中で、ジョーカー的なグイサの存在にも注目している。

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スペイン代表の宿舎となっているホテルスペイン代表の宿舎となっているホテル

スペイン代表の合宿地素晴らしい景色! スペイン代表の合宿地
| 06:27 | comments(0) | trackbacks(0) | 竹澤哲のユーロフットボール紀行 |

竹澤哲のユーロフットボール紀行03

賑やかで、とても控えめなスペイン人サポーター

 ザルツブルクから列車でインスブルックへやってきた。雪を頂いた山々が街のすぐ近くまで迫っている。翌日、ここでスペイン対ロシアが行われる。すでに、お祭りを直前にして街全体が期待感でいっぱいに膨らんでいた。ビールを飲みながら時折気勢をあげるスウェーデン人サポーターや、ロシア人サポーターも数多く見かけた。しかし何と言っても目立つのはスペイン人サポーターたちだ。静かな街におかまいなしに太鼓や手拍子で騒ぎ立てる。「エスパーニャ。エスパーニャ」とハンドマイクを片手に、わめいているのもいる。しかし街の人々はもの騒がしい人々を、微笑みながら見ている。観光客とおぼしき人も、格好の被写体を前にカメラを向けたり、いつしかその集団に加わり、一緒になって騒いでいる。
 しかしそんな威勢のよさとは裏腹に、スペイン人サポーターは案外、控えめな見方をしているようだ。今回のユーロでもスペインを優勝候補の一角にあげる人々は多いが、ワールドカップやユーロといった大きな大会でいつもスペインは期待はずれに終わっている。おきまりのように常に準々決勝で敗退してしまうのだ。スペインのマスコミはいつも大会前になると人々に大きな期待を抱かせる。しかしサポーターも、もうそういったことに慣れっこになっているのか、努めて膨らんでいく期待を押さえようとしているみたいだ。
 カフェでスペインのユニフォームを着た男が横に座ったので話しかけると、ワインで有名なリオハからやってきたという。今回のスペインはどこまで行けるだろうかと尋ねると、「準々決勝の相手がルーマニアかオランダだったら勝ち目はあるけれど、イタリアかフランスだったらだめだろう」とやけに悲観的だ。あるいは現実的な分析をしていると言えるのかもしれなかった。たしかに今回の組み合わせでは、グループリーグを勝ち上がると、準々決勝では、「死のグループ」と呼ばれる組から勝ち上がってきたチームとの対戦となる。そこを突破するのは厳しいことは事実だ。
 しかしそれ以前に、グループリーグ初戦の相手ロシアも不気味だ。予選ではイングランドを退けて本戦に勝ち進んできた。しかも監督が、ワールドカップで韓国やオーストラリアを躍進させたヒディングだからなおさらだ。初戦のロシア戦でいい戦いができれば、スペインは順調に勝ち進んでいくと思うのだが・・・。

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サポーター

サポーター
| 06:24 | comments(0) | trackbacks(0) | 竹澤哲のユーロフットボール紀行 |

竹澤哲のユーロフットボール紀行02

強いポルトガル

 ポルトガルは本当に強いと思った。2004年ユーロ、そして2006年ワールドカップの初戦ギリシャ戦、アンゴラ戦と比べて、今大会初戦トルコ戦には、全くと言っていいほど危うさを感じなかった。ほぼ90分間完璧なゲームをしたという印象を持った。
 メンタル面、身体面共に充実しているようだ。ポルトガル国歌を歌う選手たち、スコラーリ監督がテレビ画面に現れたが、みんなとてもいい表情をしていた。特にキャプテンマークをつけていたヌーノ・ゴメスには今までにない精悍さを感じたし、キャプテンという責任を与えられたせいか、身体中に気力を漲らせている様子がひしひしと伝わってきた。
 激戦が続いたプレミアやリーガエスパニョーラを戦ってきたクリスティアーノ・ロナウドやシモンといった選手には疲れが心配されたが、それをあまり感じさせない、いい動きを見せていた。むしろシーズン中の好調さをそのまま維持しているようだった。中でもレアルマドリードでリーグ優勝を飾ったペペの活躍は光っていた。ディフェンダーでありながら、スルスルと前線にあがってきて、ヌーノ・ゴメスとワンツーを決めて貴重な決勝点を叩き出した。さらに守備においても、スピードのあるニハトが突破しようとするのをうまく身体を入れて対処するなど、しっかりと仕事をしていた。まだ代表にて数試合しか経験していないペペが初戦で活躍したことは、これからも日替わりにヒーローが誕生するのではないかという予感さえも抱かせる。ポルトガルの控え選手リストをみても、誰がでてきても活躍をしてくれそうだ。それだけ今回のポルトガルは戦力が充実している。
 シーズン中は怪我が多く、バルサで十分な活躍をできなかったデコも完全とはいえないものの、存在感を示し、チームに大きな安定感を与えていた。
 もう一つ今回のポルトガルに大きな変化を感じたのは、これまでのように、レフリーに対して両手を広げて抗議するようなシーンが見られなかったことだ。後半、シモンがハンドをしたとトルコの選手が一斉に手を挙げた場面があったが、かつてのポルトガルの選手たちを見るようだった。実際、ハンドをとられても不思議ではないような微妙なシーンだったが、ハンドはとられなかった。レフリーをも味方につけるような、横綱相撲をみせたポルトガル。今回ばかりはやはり大きな期待を抱かせてくれるのだ。

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竹澤哲のユーロフットボール紀行01

羨望の的、”ユーロ”の地へ

 日本が参加するようになって少しは身近に感じられるようになったワールドカップとは異なり、ユーロは相変わらず羨望の的である。レベルの高さはワールドカップ以上といわれるのも、参加する16チームはどこもレベルが高く、実力も均衡しているからだろう。しかもこれまで何度も対戦したことのある国同士が戦うため、因縁話に事欠かないし、ライバル意識をむき出しにした白熱した戦いをみることができる。
 実際、はずれの試合などは、ほとんどない。
 開幕戦となったスイス対チェコ、そしてポルトガル対トルコも1点を争う好ゲームとなった。1対0という最小得点差でチェコ、ポルトガルが勝利したけれど、1点差を追いかけるスイスの放ったシュートは何度もゴールポストを叩く場面があったし、トルコも早い攻撃をしかけるなど、緊迫感は90分間続き、一瞬たりとも目を離すことはできなかった。
 今回の開催地オーストリアとスイスは、ヨーロッパの真ん中に位置するため、応援にかけつける各国サポーターも多い。気象条件もいいだけに、レベルの高い、すばらしい試合が3週間にわたって繰り広げられるはずだ。
 早朝、ポルトガル戦を自宅のテレビで見てから、成田に向かった。ウイーンまでは11時間のフライト。さらに乗り換えてザルツブルクまで40分。現地の時間は8日18時を少し過ぎたくらい。外はまだ明るく、あっという間に着いたような気持ちになりうれしくなった。早速、タクシーでホテルへ向かうが、驚いたことに車が中心街に入ってきても、外を歩いている人をほとんど見かけない。それもそのはず、地元オーストリア対クロアチア戦がすでに始まっているからだ。ホテルに荷物を抱えて入っていくと、引っ込んでいたフロントマンが慌てて出てきた。テレビを見ていたに違いなかった。そこで試合経過を尋ねると、「クロアチアが1点をリードしているよ」とちょっと苦笑いをして答えた。昨年12月にも三都主の取材でこの街を訪れたことがあった。オーストリア人の印象は静かでとても親切な人々というものだった。大会がさらに盛り上がるためにも、なんとか開催国にもがんばってもらいたいものだ。


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インスブルックの街角
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竹澤哲のユーロフットボール紀行

いよいよ開幕したユーロ2008!

スポーツジャーナリストで、小社刊『ジンガ:ブラジリアンフットボールの魅力』の
著者でもある竹澤 哲さんが、6月7日よりオーストリア・スイスで行われている
UEFA欧州選手権2008、通称ユーロ2008をリポートしてくださいます!

どうぞお楽しみに!

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インスブルックの街角で
インスブルックの街角で
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